帰宅したおじさん

「ただいまぁ〜。 ……いいなこういうの。
出迎えてくれる奴がいるってのはよ……。
この年になって実感することになるとは思わなかったが……いいもんだ。
……今日は魚か……旨そうだな。 (※お腹の音) 腹の虫も暴れ出しやがった。 調子のいい奴らだぜ。
俺にもなんか手伝えることあるか? ……台でも拭くか?
んじゃ、ピッカピカにしてくらぁ」

※間

「いただきますっと。 ……ん、美味い! こんなに美味い飯は食ったことねぇ!
大げさなんかじゃねぇさ。 料理の美味さってのは愛情の大きさに比例すんだ。
どんなに腕が良くても愛がこもってなけりゃ人の心は動かせねぇ。
愛のこもった手料理は世界一、いや、宇宙一美味いんだ。
確かにコレと同じ名前の料理は誰でも作ることができるかもしれねぇ。
けどな、おめぇの料理には俺への愛が詰まってる。
この”愛”っつー隠し味はおめぇにしか加えることのできねぇもんだ。
だからこの料理は、この世に一つしか存在しねぇ逸品だ。
……これから毎日おめぇの料理が食えるなんて夢見てぇだ。
…………おめぇは本当にいいのか? 近くにいるのがこんなオッサンでよ。
止めるなら今のうちだぞ? 
……おめぇはまだ若い。 おめぇの年ならやろうと思えば何だってできる。
目の前には無限の可能性が広がってんだ。
焦る必要なんてねぇ。
周りの言うことなんて気にすんな。
おめぇはおめぇのペースでやればいい。
……俺はよ、おめぇの負担になりたかねぇんだ。
おめぇに無理はさせたくねぇ。
俺には金も財産も地位も名誉もねぇ。
あるのはしょうもねぇプライドと……おめぇへの愛だけだ。
……なに笑ってんだ。 ここは笑うトコじゃねぇぞ。
……ったく、こっちは真剣に話してるっつーのに……笑われたら調子狂うじゃねぇか。
お前にとっては些細な問題でも、俺にとっちゃ重大問題なんだ。
……好きな女を泣かしたくねぇからに決まってんだろ。
……おめぇには笑っていてほしいんだ。 泣き顔なんて見たくねぇ。
何度も言うが、俺はお前と違ってもう若くねぇ。
はたから見たら”親子”にしか見えねぇだろう。
今はまだわかんねぇかもしれねぇが、将来それがネックになってくることがきっとある。
”年の差”ばっかりは、努力次第でどうこうできるものじぇねぇ。
足掻いたって無駄なんだ。
…………おめぇが決めろ。 おめぇが決めたことなら文句は言わねぇ。
”止める”ならそれまでだ。
だが……こんなどうしようもねぇ俺でもいいって言ってくれんなら……そん時は俺が責任を持っておめぇを守る。
誰にも傷付けさせねぇ。
俺にできる全てでおめぇを幸せにするって……約束する」





【帰宅したおじさん】END。